第12回ワークショップ議事録
日時:2007年5月12日 午後15時40分〜
場所:茨木市男女共生センター ローズWAM
テーマ:メソッド(2) パターン練習を中心に
参加者数:20名
司会:村上 陽子
I. 開会の辞
II. mini-charla
担当:小川 雅美 「オーディオリンガルメソッドについて(Sobre el método audio-oral)Español 2000 −cuaderno de ejercicios−を用いた授業実践」
1.オーディオ・リンガル・メソッド
1) 理論的背景
構造主義・・・言語形式
行動主義・・・・刺激→反応、習慣形成←客観的事実だけを信頼する
音声言語の重視(言語の本質は音声/実際の必要性)
2) メソッドの内容:
「聴く」「話す」を重視(escuchar y hablar)
パターン・プラクティス(反復、言い換え、応答)(ejercicios de patrones)
教師主導(学習者は教師の刺激に反応に、早く正確に反応する)・・・誤りの訂正
文法は学習者が帰納的、段階的に学ぶ(aprendizaje de gramática de manera
inductiva, por etápas)
3) 実施方法:ネイティブ教師による直接指導→(機材の開発と普及)
→カセットテープによる個人練習
4) 批判:
・チョムスキーより・・・構造主義、行動主義への批判
・コミュニカティブ・アプローチより・・・・実際のコミュニケーション力向上に寄与していない
・言語についての知識≠言語運用能力
・学習者中心でない
5) オーディオ・リンガル・メソッド(音声のみのパターンドリル)を用いた教材と教授実践の例:1960〜80年代:Modern Spanish, 『基礎スペイン語』(上智大)
1990年代以降:スペインの教材ではほとんど存在しない
メキシコでは存続?(1999年現在では存続) メソッドを現場に適応させる
2.授業実践
1) 実践環境
対象クラス:O大専攻語1年 「スペイン語5A(LL)」 1999-200(クラスサイズ:30名前後)
使用教室;LL教室→マルチメディア教室(LL設備自体は同じ)
毎回の授業の最初の20〜30分程度
2) 使用教科書、機材
García et al.(1986,1ª ed.;2003, 20ª ed.) Español 2000, nivel elemental, cuaderno de ejercicios, SGEL, Madrid.
LL仕様のカセットテープと教室の機材
3) 実践方法
a. プロセス
・前週の授業:当該課の文法事項の予習と発音上の注意
・予習:家で練習(自習用のカセットテープもしくはMDで)
・当日の授業:個人練習と録音(録音・提出用のカセットテープで)
・教師によるチェック:録音テープの内容のチェック、コメント記入
・復習:発音、文法上の問題点を全員で復習
・試験:4課ごとに録音テスト(テキストなし)
b. オーディオ・リンガル法の補完:
・発音、文法などの明示的指導
・文意を考えながら発音できるように方向づけを行う
・パターンを実際の会話に応用できるような発展練習をペアや小グループで行う
・個人指導(時にはペアでチェック)や結果のフィードバック(励ます、ほめる・・・動機づけ)
4) この方法(オーディオ・リンガル法)を用いた理由
・このクラスの目的:他の授業(特にコア科目)の補完
・基本文法事項の正確な記憶・・・専任教員からの引継ぎ(オーディオリンガル法で実践)
・聴解、口頭(言語記号としての音の受容と産出)の力の強化(オーディオ・リンガル法と他の方法で実践)
・カリキュラムの中で、文法の授業内容と会話の授業内容をつなぐ(オーディオ・リンガル法以外で実践)
・授業タイトルが「LL」であり、LL機材を備えた教室を割り当てられた
5) 利点と問題点、その克服法
a. 授業の効果についての縦断的な実証がほとんどできなかった
b. 授業内およびアンケートで顕在化された利点と問題点
利点:継続的な強化学習(学習者個人のモチベーションだけでは達成が困難)
・1年のコースでの練習量が適性(1年でほとんど終わる)
・教師、特定の方法に従って、訓練と評価を受ける安心感(上達している気持ち)
・発音の向上(音素レベル、アクセント、イントネーションのレベル)
問題点:語用論的な配慮がない(文単位、練習問題の単位、問題と答えのセット)
・その文を学習者が発話する現実的な理由がない場合が頻繁に起こる
←明示的に教える、考えさせる
・意味(意味論的、語用論的)に注意が向けにくい
←明示的に教える、考えるよう促す
・テストの時に緊張して覚えた内容が思い出せない→時としてパニック
←アンケートを書かせ、個別に対応
・機械的で退屈←動機づけの強化、他の方法と併用
・機材や録音メディアに関わる問題←対応に限界
・「科学的メソッド」なのに効果が実証されない←対応に限界
★ではオーディオ・リンガルメソッドは悪いのか?
・この授業の目的には沿う
・オーディオ・リンガルよりむしろパターンプラクティスの問題
・ただし、オーラル練習は書く練習より無意識→習慣形成の方向性が誤ると能力向上を阻害する
・長期的に見た場合、一度意味をゼロにし、型を覚えてから徐々に意味に注意を向けせてもよいのでは?
←ただし、現実の使用場面にすぐ対応できなくてよいのであれば、習慣形成をする理由がないのでは?
3.今後の課題
1)語用論(学習者の立場に立つもの)、認知心理学の知見を取り入れたパターンプラクティス
2)LL→CALL (録音メディアの変化に対応。ただし聴覚に集中するメリットもあると考える)
3)授業の効果についての縦断的実証研究(コース終了後)が必要
4)ティーチング・メソッドというより、指導技術の1つとして授業やカリキュラムに取り込む・・・カリキュラム全体のビジョンが必要(どう位置づけるか、どの程度行うか)
III グループ活動 「パターン練習の種類、効果、限界」
各グループのレジュメは こちら