日本語母語話者のための点過去と線過去の教え方をめぐって
山村ひろみ
スペイン語の動詞形式の中で,点過去と線過去は学生のみならず教師にとってももっとも困難なものです.私のミニ・チャルラはこの二つの形式を教師の観点から,すなわち,これらの形式に対する最善の教授法を探るという観点から扱いました.お話したことは以下のとおりです.
1. ここ10年の間に日本で出版された約40冊の教科書を調べてみると,点過去と線過去の説明は次のグループに分かれます.
1)アスペクト対立に基づく説明:点過去は完了相であり過去の閉じた事態を表し,線過去は不完了相であり過去の開いた事態を表す.
2)機能的にこれら二形式に対応するように見える日本語の動詞形式を利用した説明:点過去は日本語の「タ」に対応し,線過去は日本語の「テイタ」に対応する.
3)当該二形式のそれぞれと共起することのできる時の副詞句を強調する説明:点過去はよく「昨日」「去年」「10年間」等の副詞と出現し,線過去は「あの当時」「しばしば」等の副詞と出現する.
4)線過去の説明に関しては,しばしば「習慣」「反復」「時制の一致」「丁寧な用法」といった用語が使用される.
2. 上記の説明のそれぞれは間違いではありませんが,次のような短所を持っています.
1)アスペクト対立に基づく説明は次のような例に対しては有効ではない.
“Hasta hace poco vivían en Pamplona (ahora viven en Madrid).” “Pedro
era rubio de pequeño (ahora no lo es).” “Desde aquel día fueron enemigos (y lo
son aún ahora).”要するに,点過去と線過去のアスペクト対立に基づく定義が適用されない事例があ
2)日本語における対応を利用する説明は,「私が家に着いたとき,もう夜だった」
“Cuando llegué a casa, ya era de noche.”「その映画は最高だった」 “La película fue fenomenal.”のように日本語の同一形式がスペイン語の当該二形式に対応するとき,あるいは逆に,「私は3年スペインに住んだ/住んでいた」 “Yo viví tres
años en España.”のように日本語の異なる二形式がスペイン語の同一形式に対応する場合には有効ではない.これはスペイン語の二形式が日本語の当該二形式に完全には対応しないことを示すものである.
3)時の副詞の共起に基づく説明は“El año pasado iba/fui a nadar todos los días.”のように当該二形式がまったく同じ文脈で出現する事例が少なくないことから有効ではない.
3. 日本人学習者が従来の説明から引き起こされるかもしれない混乱なしに点過去と線過去の機能的相違をより簡単に理解するために,私は次のような新しい説明方法を提案しました.
a. 点過去と線過去の機能的違いの基本的枠組み:点過去は過去の「出来事」を示し,線過去は過去の「状況」を示す.
b. 線過去の特殊性:線過去は「過去の現在」である.したがって,線過去は「状況」や「習慣」のような現在と同じ用法を持つ.
4. この新しい方法が有効になるためには,学習者が「出来事」と「状況」の違いを正しく理解することが不可欠です.そのためには,「出来事」あるいは「状況」をはっきりと表す日本語の表現(動詞形式ではなく)を例として用いることが役にたつでしょう.