授業内に『文化紹介コーナー』を設ける試み
1.かつてスペイン語を学びながら中南米を11ヶ月に渡り旅行した体
2.しかし,上記の「告白」を授業で学生に語ることはありません.
3.今年度は4つの授業で毎回5分程度の「文化紹介コーナー」を設け
4.今回のTADESKAでの発表に合わせ,6月第1週の授業で「文
5.アンケートの結果からまとめると,授業の中に「文化紹介コー
験が私のスペイン語教育の原点になっています.スペイン語を習得した
おかげで各地で現地の人々と親しくなり,時には共に旅行をしたりする
ことができました.またラテンアメリカ諸国出身者の間に共有される国
家を超えた連帯感に自分も連なることができるという実感は,自分が日
本人でありながら,別のアイデンティティを併せ持つ可能性とそこから
生じる解放感のようなものを私にもたらしました.語学を介して異文化
を内面化するという体験の意義について,未だ理論化していません(極
めてナイーブな発表となり気恥ずかしい限りです).ただ今日の日本社
会に生きる人々の多くが,複数のアイデンティティを自覚する機会を
持っていると思います(例えば娘を通わせている保育園では自分の娘も
含めいわゆる「ハーフ」の子供たちがひじょうに多いです.幼少時から
二元語併用者の子供もかなりいます).また私のように「日本人」で
あっても複数のアイデンティティを持つ自分を想像することは可能で
す.スペイン語を学ぶ学生たちにもまた,彼らが最終的にどう感じるか
は別にして,スペイン語で生きる体験をしてもらいたい,そう思って教
壇に立っています.
い
きなり核心を伝えるのは困難であるし,まずはスペイン語圏を旅行し
て,無二の体験から何かを掴むべきだと考えているからです.私にでき
ることは,スペイン語圏を紹介するコーナーを授業時間内に設け,学生
たちがスペイン語の学習意欲を高め,実際に旅行に出かけるよう促すこ
とです.
ています.教師の語りだけで毎回学生たちを惹きつけ,旅に誘うのは困
難なので,NHKの「世界遺産100」シリーズの5分間番組
(各番組で1つの世界遺産)を使用しています.4クラスの内1つはス
ペイン語を専攻する学生たちの講読のクラスで,なるべく講読テキスト
の内容(「メシーカ人の移住」について)とリンクさせメキシコ国内の
遺産を取り上げた番組を解説を交え視聴しています.残り3クラスはス
ペイン語専攻ではない学生たちの初級文法のクラスで,ラテンアメリカ
全域から番組を選んでいます.
化紹介コーナー」に関するアンケートを実施し,教師の側の思いが伝
わっているか,学生たちにとって意義はあるのか調べました.設問は4
つ設けました:(1)興味・関心を刺激したか.(2)旅に出るきっか
けになりうるか.(3)学習意欲を高めたか.(4)毎回授業時間の一
部を使う意義はあるか.その結果専攻語の学生の評価がすべてにおいて
最高でした(5点満点で:4.65/4.70/4.61/
5.00 ).しかし非専攻語の学生の評価も授業態度から予想した以上に
高いものでした(4.38/4.07/3.97/ 4.66).
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設問(4)については具体的な理由も書いてもらいました.
そ の結果,専攻語の学生からは,学習意欲があがる(もっと知りたくな る,
スペイン語を勉強している理由の再確認になる,教材が興味ない内容
だったが楽しくなった);授業の理解が深まる(映像だと理解しやす
い,百聞は一見にしかず);知識が増える;息抜きになる,集中力があ
がるという書き込みを,非専攻語の学生からは:異文化理解は必要だか
ら;新しい知識を得られる;息抜き・休息になり,集中力が上がる;興
味が湧く,知らない世界に触れられる;行ってみたくなる;もともと世
界遺産が好き;普段自主的に触れる機会がないからよい;スペイン語を
勉強している意味を実感できる;日本との違いに驚くといった書き込み
をもらいました.
ナー」を設ける意義はあると思います.専攻語の授業の場合は特に,授
業内容と密接な結びつきがあり,教師個人の体験も上手くかみ合わせら
れればさらに効果が期待できます.また息抜きになり,集中力が上がる
という学生の本音も評価すべきではないかと考えました.今回のアン
ケートは発表者の思いつきで作成しただけに,方法論上問題があったか
もしれません(設問(3)において非専攻語クラスと専攻語クラスの比
較のための条件の一致に少々不備があった,設問は妥当か,学生の本音
を引き出すことができたかという懸念).いずれにせよ今後も「文化紹
介コーナー」を続けていくことにしました.ご意見・ご批判・アドヴァ
イスなどございまいたら平田までぜひおよせください.
(出席者とのやりとりから)
「なぜ学生の時に南米に行きたいと思ったか?」 「海外旅行のクラブに
入っていて、1年休学して行くことになっていた。当時は南米が暗い時代だった
ので、かえって興味を持った。知らない世界を見たい、スペイン語圏という所に
入ってみたかった」「学生たちは、『スペイン語=スペインの言語』と思ってい
るようなところはないか。ビデオを見た後でも、舞台がスペイン語圏の中南米で
あることが理解できていないようだ」「ビデオ上映の際は地図を見せるようにし
ているが、それでもわからない学生がいる。興味を持続させるため、あまり勉強
の方向には持っていかないようにしている」「文化紹介とからめて文法事項を教
えるということはあるか?」「国名、地名を音として教えるくらいか。あまり文
化紹介を勉強と結びつけなかった。負担を増やすより、興味・関心を持ってもら
う方を重視した。しかし、特に非専攻で、文化紹介をスペイン語学習とのものに
つなげる可能性はあるだろう」「ビデオ上映時間は5分が適当だと思う」「『世
界遺産100』は番組が5分で、そこに自分のコメントも含めて、全体で10分
程度。適度だと思う」「世界遺産100のビデオは売ってないいか?」「売って
るのもあるけど、売ってないものでいいのがある」「スペインのは見せてないの
か」「これまでは自分の体験談などを交えたかったから見せてない。今後はスペ
インのも見せるかも」「学生にビデオ視聴後のコメントを書かせることはある
か?」「毎回すると、人数も多く大変なので行ってない。感想は時々聞きたいが」