理想の教科書

8回ワークショップ(2006128日開催)に際し、メンバーから集めれた意見をまとめると以下のようになります。

 

1.教科書のコンセプト

  「少しずつ何でも」という教科書より、目標や個性が明確な教科書を希望する意見が多かった。例)音声重視、会話重視、基本文法と練習問題重視、作文重視など。

 

2.文法(項目・記述)

  文法項目については、当該のクラスにとって過不足なく、というのが大方の意見。具体的な提示項目についての希望は教師によって異なる。次の2点は複数の教師に支持されている。@文法項目は網羅されているが、授業では省略も柔軟に行えるよう、提示の仕方に工夫のあるものがよい。A例外的な事項まで初級文法で提示しないものがよい。

  文法説明については、意見を平均するならば「過不足なく、簡潔な形で必要」。文法項目の名称、表、例文のみという提示の仕方には批判的なコメントが複数あった。

 

3.例文

  例文の数については、多い方がよいという意見と少ない方がよいという意見があった。意味内容については、「汎用性があり、意味が伝わりやすい文」とまとめられよう。例文に日本語訳がついていることを肯定的に評価する意見が複数あった。

 

4.話題(会話や文章など、当該課の文法事項などを盛り込んだテクスト部分)

  様々な意見があった。全体として、テクスト部分を会話形式に限る必要はない、という考えが浮かび上がった。会話形式であれば、現実的、具体的、実用的であること。文化的な内容を会話形式で扱うことには批判が複数あった。話題は、日常的なもの(会話)からスペイン語圏の文化、日本の文化の紹介などまで幅広く意見が見られた。読解用の文章については、内容を学生にとって興味深く読み応えのあるものが望ましいという意見が多かった。

 

5.表現

 口語(会話文)についてのコメントが主であった。全体として、覚えやすく、多くの場面で使いやすい表現が好まれている。ただし、口語表現が多いと説明が困難であるという指摘があった。また、地域差が反映されるような口語表現については、@スペインのものを標準とすればよい、A地域差があまり出ないようにする、B注意を喚起しつつ地域性を出す、というような意見があった。地域差のある表現、定型的な口語表現については、コラムで紹介することに強い支持があるようだ。

 

6.語彙

 いくつかの意見をまとめると、「語彙の選定や提示についての方針がある程度明確な方がよい」と言えよう。地域差については、「5.表現」と同様。また、「課ごとに語彙リストがあるとよい」「巻末に語彙集があるとよい」という意見がそれぞれ複数あった。

 

7.練習問題

 問題数が多い方がよいという意見と少ないという意見の双方があった。全体として、問題のバラエティーにさらなる工夫を求めている(ペアワーク、楽しいアクティビティ、ディクテーション、絵を用いた問題等)。「本文を写せば正解」という問題や、個人情報への配慮に欠けた問題に対して批判的なコメントが複数あった。

 

8.レイアウト(文字、表、写真、イラストなど)

 1つの課の中の提示順について、「文法説明の後に本文のある方がよい」という意見が複数あった。文字については、複数の意見を要約すると、「見やすい字体、サイズで、2色使い」が好まれているようである。写真やイラストについては、@たくさんあった方がよい、A本文の意味内容に関するイラストや写真(スペイン語を理解するヒントになるイラスト、スペイン語圏特有のものについての写真など)を多く入れてほしい、B本文に無関係なイラストや写真は避けてほしい(特にイラスト)、という意見がそれぞれ複数あった。

 

9.ページ数

 1年間の授業回数から課数を特定する考え(11課、13〜15課、1セメスターで6課など)と、1回ないしは2回の授業で1課終了する(14ページ)という考え方から意見が出た。一方、ページ数や構成にあまりこだわらないというコメントも複数あった。

 

10.補足資料

 語彙集や動詞活用表については、「あった方がよい」「ない方がよい」と意見が分かれた。別冊問題集は好評である。「CDは必ずつけて欲しい」という意見が多かった。CDの録音の仕方や内容についてはさまざまな意見が出たが、「ただ録音するだけでなくさらなる工夫が必要」と要約できるであろう。

 

11.教授用資料

 教授用資料が必要という意見と不要という意見があった。内容については、@利用の指針になるような説明、A問題集、B練習問題の解答についてのコメントがあった。

 

12.値段

 おおむね、2000円〜3000円(CDつき)。できる限り低価格が好まれる。

 

13.その他

 省略。

 

世話役一同より

 

 

  以上は、理想の教科書についての結論ではなく、出発点としての各教師の考えを集約したものです。ブログ掲載用の要約なので、具体的な教科書名は明記せず、また、有益と思われても批判的なコメントは掲載していません。この活動の最大の意義は、多様な考え方の存在を知ることができた点でしょう。今後、個々の意見の根拠に踏み込んだ議論や、教科書の購入者であり主たる使用者である学生、出版社、執筆者、採用担当者などとの意見交換を通じ、多角的な視点から、スペイン語教科書の質がさらに向上していけば幸いです。


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